八丈島旅行(番外編)

 当初の予定では船中泊を除いて3泊4日、金曜日に船で帰るつもりであった。 そうなると残り一日で何をするか、というのが問題になる。

 これだけゆとりがあれば八丈富士を鉢巻道路のあたりまで自転車で攻めて、残りを徒歩で上るというのも可能であるし、昨日スルーした洞輪沢に行って帰ってくる、というのもアリだった。 

 それ以外にも、普段は「イイ景色(走って気分のいい道や潜って楽しい海も含む)、うまい飯、気分のいい温泉」を最優先するせいで後回しにしがちである「名所旧跡・寺社仏閣を尋ねて教養を深める」というのも意義深い。

 が、問題は金曜日が雨の予報だということだった。テント泊でいっちゃん不快なのが雨中の撤収というやつで、これが大嫌いなばかりに移動を取りやめて停滞日にしてしまったことも一度や二度ではない。

 仮にここで雨にならなくても、内地に戻って雨の中交通量の多い六本木通りやら国道246を走るというのはどう考えても避けたい。しかも夜だし。

 そういう約束された不快と、「次回の楽しみにしよう」と割り切った所を駆け込み的に尋ねる楽しみを天秤に掛けるとどうしても「不快を避ける」方向に傾いてしまう。 もともとオレは根性のない男なのだ。

 しかも朝起きた時点では(相変わらず眩しくて目が覚めたのだが)擦りガラスの様な鈍い色の雲が立ち込めており、この天気では何処に行くにしても楽しみを2割引ぐらいしてしまいそうに思えた。

 そして、朝飯を済ませた時点で「ヨシ!今回はこれで終了!」

 あっさり決断してしまった。 昨日のような酷い結露はないが、雲がある分渇きも悪いので早めに撤収準備を開始し、最後にテントをひっくり返して乾かし、撤収完了。 この作業が雨の中だと眩暈がするほどうんざりするのだ。

 出船まで時間がたっぷりあるので一度神湊漁港をさらっと眺めてから底土港へ向かい、乗船手続きを済ませた。 今度はキャリアに荷物を括りつけたままであっさり乗船できた。 どうなっておるのだ。

 船に乗るとさっきまでの雲がスカッと晴れ、「やっぱもう一日いたほうがよかったかな」と、優柔不断な気分になってしまったが、もう八丈島は波の向こうなので手遅れなのだった。

928f.jpg さらば、八丈島

 船の上ではやることもないので昼間っから海風に吹かれながらビールをあおる。しかし、大してやることも無い退屈な船旅かと思いきや、なかなか面白いものだった。行きでは眠くてボーっとしか見ていないものがよく見えるのだ。

 数時間すると御蔵島が見えてきたのだが、行きの船で見たときは眠くてぼんやりしていたのでさしたる感慨も無かったが、改めて見るとすごい。

 島の周囲が全部断崖絶壁で「島はあるけどとりつく場所が無い」状態なのである。 波があると接岸ができないので、東京を発つ時点では寄航できるかどうかわからないというギャンブルのような島である。 東京ととはいえここは間違いなく数少なく残された秘境だと思う。 キャンプは不可なのだが、いつか必ず訪れなくては。
御蔵島 断崖にへばりつくように存在する船着場

 御蔵島を出ると食堂の営業が始まったので早速カレーを頬張る。 どうせレトルトなのだろうが、最近はレトルトもそれなりの味になっているし、安い油でギトギトのテンプラそばなんかよりずっと食えるからこういう時はカレーに限る。

 飯を済ませるとすぐに三宅島が見えてきた。 やはり噴火による火山ガスの影響が大きくあちこちが禿山になっていて痛々しいのだが、海の綺麗さはやはりほかの島と引けをとらない。ここも一度は体験せねば。
三宅島 爪痕が痛々しい

 三宅島を通過したところでとたんに眠くなってしまい、席に戻ってからしばらくしてストーンと眠りに落ちてしまった。 キャンプ場で農工大の学生さんに

「2等椅子席の4席まるごと占領、アームレスト上げて横になる」

という奥義を教えてもらい、「2等和室の雑魚寝より人も少ないからずっと快適」ということなので試してみようと思ったのだが、試すまでも無くリクライニングしてフットレストに足を乗っけただけで眠ってしまった。 目が覚めると大島を通過して東京湾に入らんとス、というところだった。まわりに船がちょこちょこと目に入り始めていた。

 昼飯を食ってからそれほど時間がたっていないのだが、小腹が減ったので八丈島で買って食べ残したパンとチーズ、ギョニソーをつまむ。 最後に荷物を軽量化できて得した気分。 

 なんか逆光がいい感じなのでセルフタイマーで自分撮りをするが

自分撮り

 物思いにふけっているのではなく、借金に追い詰められて身投げを考えているしょぼくれた男にしか見えないという現実。 やはりこういう写真を撮るときには隣に女の子がいないとダメだわ。

 東京湾に入ると安全のため一気にスピードが落ちる。 見ているとほんとに往来する船は多いし危なっかしい。

 行きの船では夜中だったのでぜんぜん見えなかったが、

「おお、あのへんが城ヶ島
「あそこは東電久里浜火力発電所ではないか」
「なるほど、鋸山はほんとにギザギザであるな」
「おお、観音崎灯台はやはり光が強いなぁ」

 と、普段目にすることが少ないものや違う角度から次々に現れて飽きない。横須賀で釣りをしていても空気が汚いと千葉県側って禄に見ることができないのだ。

 三浦半島をじっと見ていると、いつもあそこを自転車で走って川崎まで帰ってるわけだ、俺ってすげーじゃん、などと思わず自分を褒めたくなってくる。

 また、昔釣り船に乗ったときに見ているはずだが、記憶から完全に消えているので、第二海堡を間近で見れたのも大きな収穫だった。現在あちこちが崩壊していて危険なため上陸禁止になっているが、廃墟の持つ殺伐さ加減を遠目に確認することができる。

第二海堡第二海堡 あちこち崩落している


 そして完全に日が落ちると、羽田空港やお台場の夜景の出番である。

レインボーブリッジ レインボーブリッジ
 
 レインボーブリッジを過ぎるといよいよ竹芝桟橋に接岸。 後は家まで走るだけである。半分は普段の通勤ルートと変わらないのだが、後ろに積んでる荷物のせいだろうか、ほんのちょびっとだけ普段と違う景色のように感じられた。





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翌日は朝からうんざりするような土砂降りであった。自分の選択は正しかったようだ。