八丈島旅行(その5)

 末吉温泉の前に青い海に映える真っ白い燈台、という絵葉書的シチュエーションを求めて八丈島燈台へ向かう。 が、こういう時に限って空全体に薄い雲が張ってしまい、「青い海」が望めない状況になっていた。 仕方ないのでアリバイ的に一枚だけ撮影して元の道に戻る。

 後で写真を確認したら、快晴で海の色が青くなっていたら間違いなくすばらしい光景が広がっていただろうということがわかった。本当は昨日が曇りで今日が晴れのはずなのに勿体無い。

八丈島燈台惜しい。綺麗に晴れていれば

 この後、ボトルの水が残り少なくなったので最寄の売店でコーラを購入。 飲み干してから「あ、風呂上りに飲んだほうがより美味しかったか?」と思い返すが、喉がカラカラの状態で長風呂というのも体に良くないし、大体気合を入れて温泉に入る前にはいつもたっぷり水を飲んでるからまあいいか。

 さて末吉温泉みはらしの湯に到着し、500円を支払ったら早速突入。 ウィークデイの昼間ってことで中は閑散としている。 お湯は黄土色に濁ったナトリウム−塩化物強塩温泉で見た目はネットリしているのだが、入ってみると思いのほかさっぱりしている。

 それより何より、一昨々日は会社に泊まりで風呂に入らず、一昨日は船でシャワーも浴びず、昨日は濡れタオルで体を拭っただけ(キャンプ場の水シャワーが冷たくて浴びるに浴びれなかった)、と悲惨な入浴事情だったので久しぶりのマトモな風呂が気持ちの良くないはずがない。 喉をカラカラにして冷たいビール、というのは誰しもやったことがあるだろうが、汗と垢を溜め込んだ後の温泉というのも痛快なものである。

末吉温泉1内風呂

 日によって変わるらしいのだが、この日は運のいいことに八丈島をかたどった露天風呂が男湯であった。当然内風呂はさっさと上がって露天風呂に移動する。 で、露天風呂に移動してわかったのだが、この末吉温泉の「みはらしの湯」たる理由はこの八丈島型露天風呂にこそあったのだ。

末吉温泉2素晴らしすぎる眺望

 湯船に腰掛けたままでも見える大海原と、洞輪沢の海岸線。砕ける白波。 景色だけで金を取れるぐらいの(ほかの温泉との比較で言えば実際に料金に入ってるのかもしれないけど、内地の温泉との比較で言えばタダに等しい)素晴らしさである。 景観もさることながらそよそよとそよぐ風と屋根のない開放感のせいで思わず全裸のまま仁王立ちしてしまいたくなる。んで、やった。 

 湯船を出て風呂の縁に立ち、軽く足を開いて手を腰に当ててふんぞり返る。 街中でやったら間違いなく通報されてしまう行為であるが、今はこれが許されるのだ。ああ、快感。 人が入ってきたので程々にして湯船に戻ったが、脱衣所に戻る際にふと後ろを振り返ったら、

   後から来た人もまったく

   同じ事やってんの(w

 さて、風呂から上がり、なんか食うもんでもないかな腹も減ったし、とあたりを探ったのが、休憩室だけで食事を食べる設備はないようだ。とりあえず甘く濃厚な八丈牛乳(マジで美味しい)で少し腹を落ち着かせ、ツーリングを再開。

 
 2時間の余計な山歩きで足に負担をかけたのが心配だったが、走り出してみると温泉パワーのおかげか足が軽い!

 それでも洞輪沢へ向かうとかなり下って海岸まで降りねばならず、中之郷〜藍ヶ江へ向かうには海岸線を周るのではなく、再び末吉まで上ってこねばならぬため、今回は泣く泣くスルーすることにした。洞輪沢は崖のどん詰まりにあり、直に中之郷側へ抜けていけないのだ。末吉へ戻る必要がないか、ポットホールの二時間がなければまた話は違っていたのだが。

 この洞輪沢という港は魚は沢山、海亀も時にはやって来る(地元のオバアが知ってるくらい)というオモシロスポットで、椎名誠もその著書「日本細末端真実紀行」の中で絶賛しており、大いに期待していたのだが。 まあ、海水温が低いからどっちにしても入れなかったし、夏に来る際の楽しみに取っておいたほうが良かろう。


 後ろ髪を引かれる思いで中之郷へ向かうが、さすがに暑さが凶暴になってきた。島に来た初日は爽やかな天気だったこともあって「植生も沖縄や南西諸島ほど変わってないし、亜熱帯というにも半端な感じだなぁ」という印象だったのだが、さすがにこうなると考えを改めなくてはならない。道路脇に生えている椰子やハイビスカスもじわじわと存在感を増してくる。

椰子あからさまに南国っぽい写真。 シンノウヤシ(ロベレニー)?

 くそ暑い中着実に距離を稼ぐが、このとき考えていたのは八割方食べ物のこと。 何しろ観光客向けのメシ屋はおろか、村落を離れると建物ひとつ建っていないのだから、昨日以上に食事の心配が深刻になってきたのだ。
「ああ、昨日と同じく島の味覚には出会えず安い弁当か菓子パンになるのか・・・」
 という恐怖がよりリアルに迫ってくる。

 とりあえず中之郷に着いたらさっさと食い物屋を探さないと弁当にすらありつけないかもしれない、とやや焦りながら進むと、なんとなく食べ物が多そうな店を発見した。 運が良かったのがここ「わが家(わがい)」が只の売店ではなく、仕出しやオードブルも扱っているこの辺では一番の総菜屋さんだったことだ。 

 なんとなく決心をつけかねて店の前でキョロキョロしていると、中からおばさんが声をかけてくれた。 聞くと、この先藍ヶ江港に向かうともうメシ屋どころか売店もなく、ここを逃したらただ飢えて行くだけということが判明したので弁当を購入することに決定。 といっても完成品の弁当がないため「夕方にとりに来る」という別の人向けの弁当を好意でこっちに回してもらった。 おまけに明らかに旅行者とわかる自分を見て、
「どうせなら八丈の食べ物が食べたいでしょう」
と、おかずからさばの塩焼きを除けて、トビウオのフライに換えてくれたのだ。おまけに腐敗避けに梅干しも二個追加。

 
 このさりげないおばさんの厚意にオイラの脳の中ではこの歌が鳴り響いたことはいうまでも無い。

沖で見たときは

鬼島と見たが

来てみりゃ八丈は情け島

ショーメー  ショーメー
 
 おまけに「藍ヶ江には足湯の温泉があるから入っていくといいよ、眺めがいいから弁当もみんなそこで食べてるよ」

 ああ、何から何までありがとうございます・・・。