偽札

 いや〜。大ブームですね、偽札。 って不謹慎か。

あっちゃこっちゃでパニックになってるけど、おいらも巻き込まれましたよ。偽札騒動。

って、おいらが勝手に騒いだだけなんですけどね。


 皆さん、お手元に旧一万円札お持ちでしたら、お札の左上と右上、「10000」の下あたりを
見てみてください。 老眼か遠視でなければUの字型の部分にもんの凄くちっさく NIPPONGINKO と書かれているのがわかるでしょう。

 これ、偽札対策の「マイクロプリント」ってやつなんだけど、真保裕一の小説、「奪取」を読むまではあることすら知らなかったし、気にもしてなかった。 大抵いつも5000円以上持たないし、必要になるたびチョコチョコ郵便局で下ろしてたからね。

 読んだ後もそんなに気にすることもなかったのだが、最近やたら偽札騒動があるし、お客さんも冗談めかして言うしで、ちょっと神経質になってたんだな。

 ここ数日、お札をしげしげ見るようになったんだ。ま、営業時間終わってからだけどさ。

んで、今日ふと見たレジの一万円札の中の一枚、

マイクロプリント無いじゃん

旧札 マイクロ文字なし

 すっかりパニックになったオイラ、慌てて渋谷警察署に電話した。

そのとき浮かんできたのは10数年前の悪夢であった。 うちの店が入居しているビルでは、以前殺人事件が発生し、顧客名簿を警察に提出させられたことがある。 警察はうすうす犯人の目星は着いていたようだが(限り無く真っ黒に近い灰色の893がいたらしいが、どうしても証拠がつかめなかったそうだ)、念の為うちの顧客にローラーがかかったのである。

 今回もお客様に迷惑をかけるのだろうか?頭を抱えつつ事情を話すと、

「えーと、じゃ、担当に変わります」

そして電話に出てきたのが、知能犯係のデカ。

この人はさすがに知能犯のプロで冷静だった。
新札でなく旧札だったのに一瞬神経を尖らすのを感じたが、透かしがあることを伝えると、

「平成5年以前の一万円札はマイクロプリントが無いんですよ。 この間も同じ持ち込みがありましたが、透かしがあるのなら多分大丈夫だと思います。でも、心配でしょうから、ブラックライトを当ててみたほうがいいですね。無い? じゃ、銀行の窓口に持っていって、鑑定してもらってください。ATMはダメです。 もし偽札だったらすぐに連絡お願いします。」


 ATMは大抵、磁性インクを読み取るものなのでそれさえすり抜けてしまえば偽札でもお手上げというのは小説で読んでいたので、納得である。 しかし、平成5年以前のはマイクロプリント無しというのは知らなかった。 ていうか、小説の一番最初のところ、もう忘れているだろっ!!

 例を言いつつ電話を切って、へたり込んでしまった。
偽札ではない可能性が高くなったわけだが、やはりあまり気分のいいものではない。

が、マイクロプリントが無いことに気づいて渋谷署に駆け込んだ人がもう一人いたので、少し救われた気分である。慌てものは俺一人では無いのだ。

 が、ちょっと気になったのは「平成5年以前発行の・・・」・というやつである。お札の寿命を考えたら、そんな古いのが入ってくるのだろうか? 気になったんで調べたよ。 
そうしたら、お札の寿命は一万円札なら平均で3〜4年、千円、五千円札で1〜2年だそうだ。

 まあ、バブル真っ盛りの時にガンガン刷られた札であるからして、何枚か生き残ってるのがあっても不思議は無いかも知れないが、平均寿命の数倍の年月を経てもまだ流通してるというのは相当珍しいのだろう。 俺とは別の慌て者が渋谷署に駆け込んだのも無理無いではないか。

 とはいえ、まだ手元にあるこの万札、12年も経ってる割には妙に綺麗なのがちょっと気になる。 月曜日に一応銀行に持っていくことにしよう。