旅するザック〜先輩たち・その1〜

 さて、このエントリでは本に登場したフレームザックを紹介したい。

 バックパッキングのバイブルとしては沢木耕太郎氏の「深夜特急」が有名だが、残念ながら彼の書では「フレームザック」は登場しない。時代的には沢木氏はフレームザックを使っていたと思われるのだが、こういう記述があるだけである。

 Tシャツ三枚にパンツ三枚。半そでと長袖シャツが一枚づつ。靴下三足。何故か水着とサングラス。洗面道具一式。近所の医者が万一の場合にとくれた抗生物質正露丸一壜。アメ横で買った安物のシュラフと友人からの貰い物のカメラ一台。ガイドブックの類は一切なく、ただ西南アジアの地図とヨーロッパの地図が二枚あるだけ。本が三冊。それがザックに突っ込んだ荷物のすべてである。
 (深夜特急 第一便第二章「黄金宮殿」)

 この後、ザックに関する記述はほとんど無い。値切りまくって乗った長距離バスの荷物室に積み込んだザックに漏れ出したガソリンが滲みて往生するシーンがあるくらいである。


 深夜特急バックパッカーの表バイブルとすると、裏バイブルといえるのが上温湯隆氏(1975年、ラクダを使用したサハラ砂漠横断チャレンジ中にマリ共和国メナカで事故死)の2冊の著作「サハラに賭けた青春」 「サハラに死す」だ。 知名度は今も文筆活動を続ける沢木氏には及ばないが、その影響力の凄まじさは、紺野衆、飯田望、児島盛之、小滝透、前島幹夫などのフォロワーを生み出したことからも窺い知れるであろう。

 このうち後のサハラ横断へとつながる世界ヒッチハイク行を描いた前者に彼の勇姿とともにボロボロのフレームザックと、その荷物が招く騒動が詳細に描かれている。

上温湯隆氏
16?の写真 
フレームザックの上に寝袋がくくりつけられている王道スタイル


 
「人のものだと思って安っぽく開けるな!中を調べたければ自分で開けてやる!」
(中略)
 若いポリスのおかげでやっと自分の手でリックを開けられる。カメラ、衣服、日用品などを一点一点床の上に並べて危険物の入っていないことを証明する。
 まわりをかこんで、一部始終を見ていたポリスたちは、なかば期待がはずれたような表情で、それぞれの持ち場にすごすごと帰っていった。これですべての問題は解決する。たかが汚れたリックひとつのためにと、ポリスたちはバカバカしさを露骨に顔に出しているが、僕にとっては、日本を発って11ケ月もの間一緒に旅をしてきた唯一の相棒なのだ。野宿するときは枕となって安らかな眠りを支えてくれ、車を待つ間は椅子代わりとなり、リックの裏側は流れ出る背中の汗がにじみ、しみだらけになっているが、僕にとってかけがえのない友人なのだ。それを、汚いリックだと手荒に似扱うのをみて、無性に腹が立ち、つい興奮してしまったのだろう。
(サハラに賭けた青春 〜6.ポリスとトラブルを起こす〜)

  

 「サハラに死す」ではラクダ使用のために荷袋、水筒なども現地スタイルになっている上、経験から行動が「洗練」されたためか、このような記述は登場しない。