旅するザック〜先輩たち・その2〜

 さて。わりかしシリアスな前エントリで紹介した2作に比べて圧倒的に面白おかしく、また馬鹿馬鹿しさに溢れているのが椎名誠率いる「東ケト会」を描いた作品の中でも最高傑作の呼び声高い「あやしい探検隊 北へ」である。

 東ケト会は厳冬期の3000m級登山など、当初は真面目に硬派なアウトドア活動をやっていたのだが、近所の小学生の参加や、年長隊員の加齢による体力低下などとともにじわじわと堕落。 椎名隊長いわく「古着屋の夜逃げか犬さらい、テキヤの引越しといった気配が強い」スタイルになっていく。服装はショートパンツにサンダル履き、荷物は段ボールに入れロープでぐるぐるくくっただけ、という凄まじいものだ。

 そこにフレームザックを持ち込んだのが、体力がなく「本の雑誌」配本バイトに挫折したドレイのサワダこと沢田康彦氏である。 サワダ氏はその後ブルータスの編集部入りし、椎名氏の担当編集になり、エディター兼エッセイストになり、その後本上まなみのダンナになるのであるが、当然この当時の姿からはそんなことは予想できない。

 東ケト会は沢田氏いわく、「ドロドロの因習に培われた保守性のかたまり。前例のないことはしない」集団であるから、これは一種の事件となる。

 それからまたもうひとつ、我々をハラハラさせたのが新顔ドレイ、玉三郎・サワダのお姿であった。
 サワダはカーキ色の探検隊シャツに同じくその色のズボン、真っ赤なハイソックスに真新しいキャラバンシューズ。グレーの探検隊帽子を被り、背中には一番上に黄色いシュラフを載せたバックパッキングをくくりつけ、まるでもうアウトドアマガジンの表紙からそっくりたったいま抜け出してきたようなピカピカキラキラの格好で現われたのだ。
 (あやしい探検隊北へ 〜隙目車掌のミステリートレイン〜)


あやしい探検隊その写真がこれ 段ボールの山の前に居心地悪そうにフレームザックが
 そして、このあまりにも正しい姿のサワダ氏に対し、古参隊員のにごり目のイサオが苦言を呈するのだが、そのイサオ氏の姿はアロハシャツにラクダの腹巻、ビーチサンダルをはいて手には競馬新聞と凄まじい。 その横についさっきまで仕事をしていた木村弁護士が立っていて、隊長である椎名自身が

 「この3人がこれから同じところ(注・新潟県の粟島)に向かうってだれも信じないだろう。こうすると、やっぱりただのあやしいおじさん達でしかないように思える」

 と述べている。

 フレームザックがこんな狂言廻し的な扱いを受ける作品もこれくらいだろう。

 また、巻末の座談会でこんな発言もある・・・。

 沢野:探検隊っていっても、もう全然だらしがないのね。道具なんかを持っていくのに、ダンボールに入れて引きずって歩いていったりしてるんだよ。

 小安:でも昔は、もっとちゃんとしてたよな。
 
 目黒:昔はみんなショイコで荷物運んでたんだよね。

 沢野:しかしそれも人から借りたものね

 前エントリで紹介した上温湯隆氏のザックへの強烈な思い入れと比較すると、グダグダっぷりが突き抜けており、なんとも微笑ましい。オイラも砂漠で渇死するためにザックを購入したわけではないからとりあえずこの両者のバランスをとって使いこなしたいもんである。