湘南ツーリング〜ギョサンを買いに〜

 実に一年ぶりの長距離ライドだ。
 昨年生まれて始めてにして過去最悪の肉体的トラブルとなったギックリ腰をやったわけだが、その思い当たる主因が、なんとなく腰が痛いのに無理してというか大して深刻に考えずに湘南にサイクリングに出かけた事であった。

 
 半年以上痛みを引きずった上、概ね痛みが引いた後も思い出したように腰に違和感が出たりした為にいつも再発の恐怖感が付きまとい、長距離のサイクリングはなかなか実行に移せなかった。 行った先で再発したら帰ってこられなくなる恐れがあるではないか。
 
 そのためここ数ヶ月でもどんなに遠くても横浜や国立(多摩川CRが途切れる地点)まで、一日50kmを越えることはなく、トレーニングの主軸は鎌倉のウォーキングやプールに軸足を移してしまった(もっとも、そのプールもクロール&平泳ぎではなく、クロール&水中歩行に変わった)。

 そして先月、走行距離は短いとは言え念願の八丈島キャンプツーリングを無事に走り終え、いよいよ一日100kmの壁を破る決心がついた。行き先はイザという時周りに人がいないと怖いので奥多摩方面はやめておいて、勝手知ったる我が家の庭、地図を見ないでもOKな湘南にした。

 今後のキャンプや釣りなどの海レジャーで重宝しそうな「ギョサン」(小笠原でよく使われる、漁業従事者用サンダルとか漁協サンダルとかの略称)が欲しくなったので、入手しやすい葉山のサンダル専門店に行きたかったという事情ももある(靴流通センターやそのへんのホームセンターなんかでは意外と売っていない)。


 天気予報ではかなり怪しかったものの、朝起きると爽やかに晴れていたためニヤニヤしながらMTBに空気を充填し、10時ごろ家を出た。ホントはもうちょっと早く出たほうがいいのだが。

 
 いつもよりやや時間を掛けて横浜をぬけ、横須賀方面に向かう。普段は横浜から鎌倉街道を進み北鎌倉を経由して材木座海岸に出るのだが、今日は葉山で買い物があるので横須賀の汐入から県道27号(横須賀葉山線)で一色に出るか、湘南村国際センターを通り秋谷に出よう・・・という計画だった。

 が、何を血迷ったか、走行中放心状態になっていたか、有り得ない位の盛大な勘違いをしていたか、
「どこで右に曲がるんだっけ」
と、フト我に返ったときには汐入を遥かに過ぎ、三浦半島大雑把一周コースの右折地点であり、釣りのホームグラウンドである大津の交差点に到達してしまっていた。

 ここまで来ると国道134号をたどって久里浜野比〜三浦海岸〜引橋〜初声〜武山の三浦半島ぐるりの黄金コースか、ちょっとショートカットして北久里浜〜YRP〜あとは同じ・・・になってしまう。

 さすがにそうなると日のあるうちに帰れるかどうか心許ないので、根岸から衣笠まで大回りに北に戻り、県道26号(横須賀三崎線)で武山に出て、そこから国道134号を北上、と軌道修正することにした。

 途中コンビニでマロンクリームサンドとミルクコーヒーの軽い補給食を済ませ、エネルギーを充填した所で横須賀三崎線の上り坂にアタックしたのだが、 横横インターの合流地点で地図を確認した時にようやく
「北久里浜から回ったほうが無駄がないじゃん・・・」
と気づくのであった。 それでも足は軽やかに武山から秋谷に抜ける。
 
 時間のせいもあるのだろうが、秋谷に出て視界がパッと開けたときのインパクトは春に大楠山走破をした時の比ではなく、思わず

ひゃああああっほおおぅ

と絶叫してしまうほどであった。

立石公園より武山方面を望むキラキラ感はこんなもんじゃありません

 7〜8月に三浦のどっかでシュノーケリングしようと考えているのだが、普段と違いそういう目で見ると、この秋谷周辺というのもなかなかどうして良さそうな岩場である。

 今日はクソ暑いこともあって泳いでいたり磯遊びをしている家族連れも多いが、子供たちが遊べるトコなのだから、経験の浅いオイラでもそう危険なことはなかろう。

 そうして海岸に目をやりつつ走っていると、いつも目にする
「勝手に魚介類や海藻獲るんじゃねえぞゴルァ」
という看板とは別に

「旧日本軍の砲弾の信管がこのへんにある
けど爆発するかもしれないから触らないで

通報してね」


という、腰が低いながらも実に物騒な看板が出ていて思わず冷や汗。


 それでも実に快適な海沿いのルートのため3分ぐらいですっぽり忘れてずんずんと北上。 いつもおなじみ、森戸海岸の「展望台とバス停つき豪華トイレ」で水を補給し(展望台はカギがかかっていた)、さらに北上。 このへんはホントに気分がいい。

森戸海岸サワヤカ森戸海岸

 このとき、
「あれ?げんべい(サンダル専門店)って葉山一色じゃなかったっけ?通り過ぎちゃった?」
と、碌でもない考えが頭に浮かぶが、まあそん時はそん時だ、といい加減に考えて走り出すと、すぐに見つかった。
 が、姉が言っていたようにげんべいよりも隣の葉山釣具センターのほうがギョサンに力を入れており、店の前で盛大にワゴンセールをやっていたのでそっちで購入してしまった。男性用Lサイズ(26インチまでOK。大き目のほうが無難だそうだ)を購入し、再び北上。

 いつもはこのあたりはウンザリするほど渋滞していて自転車でもかなりペースダウンせざるを得なかったりするのだが、不思議なことに今日は土曜日なのに横浜からこっちずっと空いていた。 

 が、さすがに逗子を過ぎるとガラガラというわけには行かなくなってきた。これ幸いと逗子海岸のハズレあたりを減速しながら見るとこの辺もシュノーケリングは出来そう。ただ、昨日の雨による濁りがかなり残っているのでここは前日前々日の天気次第という事になりそうだ。

 材木座海岸を突破し、最渋滞ポイントの七里ガ浜を抜けると、何かに吸い寄せられるように導かれ、気がつくとブルーシールで紫色のウベアイスを頬張っていた。 沖縄でもよく食ったが、なんとなくマシュマロを髣髴とさせる独特の歯ざわりのアイスは長距離を走った後、殊にこういうクソ暑い日は余計にうまい。

 この後江ノ島の湘南港(白灯堤防)まで走り、釣り人と談笑。 今日は朝はイワシ、昼はアオリイカが好調、と俺が釣りで来ないときに限ってすばらしい日和だったようだ。防波堤はイカの墨で真っ黒になっていた。


 雲も出てきたのでそろそろ帰るか、と江ノ島を後にしたのだが、とんでもないコースミスのせいもあり、ここに来た時点で既に90kmを越えていた。こうなると腰だけでなくなまりまくった足が心配になってくるが、さらに負担を掛けるように鎌倉のタカラヤでパンを買いまくってしまった。

 思いの外足はまだ元気だったが、加えて運の良いことに港南区に入ったところで立て続けにロードレーサーに遭遇。横浜までずっと引いてもらったおかげで横浜まで予想外にいいペースでたどり着くことが出来た。

 時間にやや余裕が出来たので中華街に寄り道。いつも中華食材を購入する耀盛號でキンキンに冷えたチンタオビールを購入し、店頭で一気に飲んでしまう。恥も外聞もなく

「プハァーーーー」

と声を上げると店のオジサンは思わず笑っていた。
ついでに晩飯の食材(揚げ蝦煎)を購入。さらに増量して帰宅の途についた。 さすがにこの距離になると健康体でも腰や背中がきつくなって来るが、激痛のぶり返しもなく無事に帰宅することが出来た。

 走行距離は実に138km。 ジワジワと以前の体を取り戻しつつあるようだ。