神津島2

 昨年の八丈島行きで二等和室の各種騒音に懲りていたので耳栓を用意していたこともあって、さして鼾にも悩まされず、酒も飲まずにすみやかに眠りに落ちることができたのだが、思わぬことで叩き起こされてしまった。

「まもなく大島に到着いたします。下船のお客様は・・・」

のアナウンスである。神津島着は9時過ぎなのに、今はまだ5時前・・・。一旦目が覚めてしまったのでデッキに出るが別にやることもないので出航と同時に客室に戻り再び眠りに入った。しかしその後も利島、新島と一時間おきに起こされたことで完全に目が覚めてしまい、諦めて歯を磨いておきてしまうことにした。

 大島、新島と式根島で客の大半が降りてしまい、一気に船内が閑散とする。ちょっと寂しい気もするが、島内キャンプ場大混雑でもうコリゴリ、ということはなさそうなので自分にとっては都合がよい。

 そんなこんなで9時10分に前浜港に到着。 下船後まずは観光案内所でパンフをゲットしたのちにキャンプの登録。 普段めったにこんな事しないが、話を聞くついでなのでやってしまうことにした。 聞くと、当初の予定の長浜、沢尻湾ともそれほどキャンパーは来ていないとの事。多幸湾キャンプ場は設備が整っているのはいいのだが、有料だし(・3・)、港からは坂を越えていかないといけないので最終日に港に戻るのにキツイかな、という思いがありちょっと二の足を踏んでいたのだが、船を下りるときに子供会の団体キャンプみたいのが目に入ってなんとなく嫌な予感がしたので完全に行く気をそがれてしまった。 

 両方に登録しといて行ってから決定するというまことに俺らしい方針を下した後、北へ向かって走り出した。すぐに気分のいい海岸に到着し、芝生に2〜3テントが張られているのでここがキャンプ場だな、とわかる。 屋根付の炊事棟、トイレとシャワー、そして目の前は気分のいい海。 道路に面していて、目隠しのための植栽帯が無いので道路から丸見えなのが気になるが、港からは近いし近くに自販機はあるし、何よりテントから出たらすぐ海に入れるのがいいじゃん!砂浜の脇は磯になっててスノーケリングにもよさそうだし。 



 ガイドブックで見た限りでは赤崎に近く、目の前に天然プールのある長浜のほうがアドバンテージはありそうだったのだが、こっちも目の前で潜れるし、港にも近い、あと温泉保養センターにも近い、と互角以上の実力がありそうなので、ここ沢尻湾キャンプ場で荷物を置いてテントを設営してしまうことにした。
 
 テントを張った後、そういや昨日の夜から何も食ってねえな、泳ぐ前に腹になんか入れとこ、と前浜港に戻って売店を探したのだが、パンやジュースや菓子を販売してる売店が坂の上のほうにあり早くも汗だくになってしまった。 後で分かったのだが、神津島の住人が利用するような商店はすべてこの坂の上というか中腹にあり、かなり苦労をさせられることになるのである。
 
 とりあえずジャムパンとコーヒーで腹を落ち着かせた後キャンプ場に戻り、早速海パンに着替え、マスクとフィンを装着。ちなみに出発前の天気をウェザーニュースで確認したところ、日別表示では曇り、時間別表示では晴れであった。で、今空を見ると天上山側半分に雲がかかっており、海側は雲が無く、太陽は出たり隠れたりという状況。 この為「この天気ならラッシュガード代わりのシャツいらんよな!」とばかりに上半身マッパで海に飛び込んでしまった。

 向かって右側の磯場から海に入ると、ここ最近入った油壺や真鶴とは一味も二味も違うことがすぐに判った。チリのように浮いている浮遊物はないし、岩礁にへばりついてる貝も多い。茹でて食うとおいしいシッタカが笑っちゃうぐらい沢山いる。 そして魚もカゴカキダイオヤビッチャ、ベラが走り回る。小物だけではなく悠々と泳ぐフエフキダイも。


 夢中になってデジカメを振り回していると、なんとも懐かしい黄色と黒の縞模様をしたブーメランが・・・
 

ツバメウオ!!

 真栄田岬の人慣れしたツバメウオのように落ち着いておらず、ちょこまかと動き回るのでなかなか横から撮らせてくれない。 必死に追跡してカメラに収めたのだが、うまく撮れただろうか。

 ツバメウオだけでメモリーカードの容量とバッテリーを消耗するのもアレなので、湾中央に浮かんでいる筏のあたりに少しずつ移動する。中央部は砂浜なのだが、深さ2mを超えたあたりからところどころツブ根が現れる変化に富んだ地形なので、完全砂地の浜よりも生き物は豊富。 ジャックナイフで底まで行けば岩にコケギンポやらサビハゼが身を寄せているのが分かる。 何度か潜っていると岩陰にハコフグが身を隠していたりとちょっとしたサプライズもあった。

 その後も筏に登ったり一度岸に上がって再び入ったりを繰り返した末、12:30ごろに海から上がる。ここでずっと潜っていてもいいのだが、もう一箇所も見ておこうかな、と気が変わったので赤崎に向けて走り出した。

 
 走り出してすぐの温泉センターを過ぎてちょっと行った所に結構な急坂があり、ヘタって押しが入る。たいした距離ではなかったのだが、初めての道&急勾配ではどこで終わるか予想がつかないので心が折れるのも早いのだ。それでもここを過ぎてしまえば気分のいい海岸線の平らな道だ。
 
 途中、キャンプ地候補のひとつであった長浜を通るのだが、ここで海から上がって水を浴びている親子連れがいたので話を聞いてみた。それによると魚はここより赤崎のほうが沢山いる模様。 加えて周囲を見渡すとキャンプ地が沢尻湾と違い砂地、おまけに買出しに出るにも売店は近くにないので、前浜のほうまで戻らないといけないらしい。赤崎に近いとはいえ、これでは無理して移動してくるメリットもあまりない。横着のため沢尻湾にテントを張ってさっさと荷物を下ろしてしまったが、正しい選択だったようだ。
 
 長浜からさらに先へ行くといよいよ赤崎が見えてくる。入り江を縫うように木造の遊歩道が整備され、これがまた景観にマッチして大変よろしい。


 ここには無料のトイレ、シャワーが完備しており、かつての真栄田岬のようないたれりつくせりぶりだ。 シャワー室の脇に自転車を止め、すばやく着替え、三点持ってさあ行くぞ、てなところでライフセーバーに呼び止められ、いろいろ注意を受ける。 まあ、「ブイの外に出ないでね」ぐらいのところだ。


 そしていよいよ遊歩道の階段を下り、梯子を降りてエントリー。
ん?言うほど澄んでないじゃん、と思ったのだが、ここは入り江の奥の奥で浅い上に飛び込み台から絶え間なく人が飛び込んで砂を巻き上げてるからで、ちょっと進むと直ぐにここが只者ではないことがわかった。

 透明度が高いのはもちろんのこと、生き物が豊富なのである。 
 オヤビッチャスズメダイ、ベラ、カゴカキダイの定番は勿論の事、ボッテリと太ったブダイがそこかしこに泳いでいる。真鶴でもいるかいないかといった程度のツノダシもすぐに目に付いた。
 


この二匹はいつも仲良く二匹で並んで泳いでいた 

そしてこうした魚を育んでいるであろうサンゴのゆりかごも、壊滅した後の真栄田岬よりもしっかりとした強さで息づいていた。
 
 もちろん無事だったころの沖縄には遠く及ぶべくもないのだが、キクメイシ、テーブルサンゴ、エダサンゴとみなそれぞれしっかりと主張している。造礁サンゴだけではなく、ソフトコーラルもいる。なかでもよく目に付くのが宮崎アニメに出てきそうなプヨプヨのぶどうのような「サンゴイソギンチャク」だ。

まるでぶどうのようなサンゴイソギンチャク



そして岩礁やサンゴの隙間からはところどころイバラカンザシが花を咲かせている。

こう見えてゴカイの仲間

 久しぶりに見る透明度の高さとサンゴの海のすばらしさにすっかり逆上してしまい、狂った猿のようにシャッターを切りまくった。冷静さを失っているのでほとんどピンボケだったが。

 そんなこんなで2時間あまりここで潜り続け、物は試しとばかり3度ほど飛び込み台からのダイブも楽しんで、4時過ぎになるまで居座り続けた。 飛び込み台からのダイブで少し水を飲んでしまったので口の中がしょっぱくなった為、陸に上がってから飲むコーラはまた格別だった。

 そしてシャワーを浴び、キャンプサイトへ帰還。 その後商店街に買出しに出かけ、朝飯のパンやチーズ、餌付けと晩酌のつまみ兼用のギョニソーなどを購入した。 晩飯には野菜を使ったおかずを作りたいのだが、ばら売りはしてないし、この季節はすぐ腐るのでレトルトにするしかない。ビーフカレーとチルドハンバーグを購入して今日のおかずとした。

 キャンプ場では学生グループがバーベキューで盛り上がっているのが実にうらやましい。夏の単独キャンプ行で最大の難点がこの食事であろう。数人で行けば野菜や肉は一度で使い切ってしまうから少なくとも同じメニューにはしなくて済むのだが。
 
 5月の式根島キャンプではラーメン鍋としてしか使わなかったが、今日は久々のご飯炊きである。で、やってみるとスノーピークの「焚」は実にご飯が炊きやすい。あっというまにカニの目のついたおいしいご飯が炊けた。

 今日は一日泳ぎまくった上に、10時頃に軽く菓子パンを齧ってコーヒーを飲んだだけなのに、何故かそれほど空腹になっておらず、ハンバーグカレーだけで腹がパンパンになってしまった。晩酌のつまみ用に購入したサンマ缶も今日は出番がなく、8時にはさっさと歯を磨いてテントに潜ってしまった。
 
 そして、マットに横になった瞬間、今日一日とんでもないミスを続けていたことに気づくのである・・・。