八丈島旅行 (その3)〜洞輪沢・中之郷〜

 
 外人サンたちの深夜の演奏は終わったがクソ暑いことは変わりない。 風が強くテントが煽られててひしゃげ、体にインナーシェルの布地がへばりつくこともあるのだが、それでもちっとも涼しくないのだからかなり暑いのだろう。 出発前の予報では内地より2〜3度涼しいはずだが、むしろこっちのほうが暑いような・・・。
 
 暑苦しさで何度も目が覚め、朝は強烈な日差しで朝早いうちに起こされる。なんとも寝不足ではあるが寝てもいられないのでもそもそと起き上がり、簡単な朝食を済ませる。
 
 さて、朝食を済ませたら前回訪れなかった洞輪沢へおでかけである。この洞輪沢へは末吉の町からずっと坂を下って行くのだが、中之郷方面への抜け道がないため、中之郷や樫立方面へ向かうにはもう一度キツイ坂を登って末吉へ戻らねばならない。 末吉の町に行くには底土からだと登龍(のぼりょう)峠という結構な登りをクリアせねばならず、これは自転車乗りにとって大いに闘志を掻き立てられるものなのであるが、今回出かける前・・・というか、7月に真鶴でスノーケリングをした直後から変な気管支炎になってしまい、咳と痰が止まらずずっとトレーニングやチャリ通をお休みしていたこともあって体重は急上昇、足も重く、肝心の体調も完治に程遠い状態ではかなり厳しい。
 おまけに昨日植物園の帰りに観光協会に立ち寄ったところ、末吉の町にあった食料品店が廃業してしまい、水の補給が難しくなった事が判明したのである。 前回は5月にもかかわらず登龍峠を越えたあたりで水を殆ど飲み干してしまったのだが、前回と比べ物にならないくらい暑い上に体力の落ちた状態では大いに不安である。
 
 それに加えてもう一つの問題があった。 それはBU・S・PAという、「末吉見晴らしの湯」「中之郷安らぎの湯」「樫立ふれあいの湯」に加えて町営バスが二日間入り放題乗り放題でなんとたったの1000円!というたいへんお得なフリーパスで、スノーケリング+温泉をメインに据えてる今回の旅では大いに活用すべきものを観光協会で目にしてしまったのである。
 
 一旦自転車に跨って底土のキャンプ場を出たものの、最初のバスにはまだ10分あるし、キャンプ場にいたもう一人のおっさんもバスで洞輪沢温泉に行くとの事だったので、悪魔の囁きに負けてあっさりバス行に変更してしまった。 
 
 ちなみにバスは過疎地らしく客はもう一人のキャンパーのおっさんとシルバーパスの老婆一人で、完全な赤字運行だった。 北部循環路線(大賀郷や大越鼻を回るルート)が、廃止されてしまったのも止むを得ない事か。 ちなみに普段は何便かあるうちの1〜2本は洞輪沢まで行っているのだが、夏季は底土に停まる分洞輪沢へは停まらなくなってしまうという、なんとも辛い仕様になっているのであった。
 
 末吉のバス停からは徒歩だが、まだ8時を少し回ったところだというのに早くも凄まじい陽射しと暑さですっかり参ってしまった。 自転車だったら登龍峠でダウンしてしまったかもしれない。それにしても前回入り損ねた温泉のために洞輪沢に行くのであるが、温泉に浸かってもまた末吉に戻る頃にはヘロヘロの汗びっちょりになっているのはまず間違いのなさそうなところ。 とは言え「八丈島で一番効く」との温泉に入らないのは温泉好きの自分としては八丈富士に登らないより許せないこと。じっと我慢しつつ汗を拭き拭き坂を下る。
 
 ボトルを置いてきてしまったので水が心配なところだが、途中湧き水が道路わきの崖からドバドバ流れ出している所があったので、いざとなったらコレを飲めばいいだろう。 陽射し、暑さとも凄まじいとは言え、先週はずっと悪天候だったし、三原山の頂上は今でも雲を被っているので山頂付近は雨が降っていてもおかしくない。この湧き水もそのおかげなのかもなと思いつつ、ようやく洞輪沢の集落にたどり着いた。
  
 ここはかつてはホテルもあった漁港なのだが、寂れ方はハンパではない。 漁船がみんな出て行ってしまったせいもあるのだろうが、人気も殆どない。民宿が数軒あるが、営業してるのかしてないのか判らないくらい人気がない。 そんな集落を抜けていくと、漁港の脇にコンクリート打ちっぱなし、外壁にペンキをテキトーに塗っただけという感じの温泉が現れる。
 

  
 自販機があったので水に関してはとりあえず一安心。 ちょっと先まで足を伸ばすことにして温泉は後回し。この先「汐間温泉」といって、海岸ほじくったらそこから湯が湧き出て温泉だぜハッピー!というのがあるらしいので見て行きたかったのだが、ずっと行った先には歩道(というか堤防のケーソン)が崩れて先へ進むのは相当厳しそうだった。おまけに滝ができている。
 

 
 おとなしく戻り温泉に浸かる。 地元の漁師さんやサーファーがメインユーザーの無料共同浴場だから物凄く無骨である。 パイプからごっぽごっぽと威勢よく湯が噴出しているのは景気がいい感じでよろしい。

  
 なかなかいい感じの湯ではあるのだが、外がクソ暑いので、上がってちょっと涼んでもう一回、てなわけにいかないのがいつもと違うところ。 基本物凄く長風呂なのだが、今回に限ってはカラスの行水であった。

 湯から上がったら港のほうへぶらつく。 椎名誠の本ではこの港でもスノーケリングをしたようだが、流石に船着きスロープから入るのは一寸躊躇われる。 そこで暇そうにしていた爺さんに聞いたところ、公衆便所の脇の階段から降りたところなら泳いでも大丈夫らしい。あとは今はなき南国温泉ホテル下のタイドプールらしいが、まずはここで潜ってみよう。 以前末吉のばあさまに聞いた話ではこの港にも海亀がフラフラ入り込んでくるという事だし・・・。
 

そういや手すりと階段があるね
 
 階段を下りて潜ってみると、水は綺麗なのだが生き物の気配が殆ど無い。底の方にナマコとウニが数個転がって、あとははぐれスズメダイが数尾いるだけだ。 これはちょっと勇気を出して岩礁帯の外側出てみないと行かんかな。 というわけで、おそるおそる岩場の外側に出てみようか。 テトラが切れて浅い岩礁帯のところは波が砕けて体をかき回されるのでちょっと怖い。 さっき小学生ぐらいの子を連れた親子連れがあっさり出て行ったが、自分はここは初めてなのでどうしても恐怖が先にたってしまう。 それでもなんとか岩礁帯の外側に出ると、港内側よりは幾分魚が豊かだ。
 

定番ハニー
 

ミヤコキセンスズメ!?
 

彼らがいるとぐっと和む
 
 とりあえず上がって一息ついていると、親子連れも上がってきた。 親子連れによるとやっぱり一番凄いのは「乙千代ヶ浜(おっちょがはま)」らしいのだが、強風の昨日はもちろん、今日の朝行ったところ遊泳禁止だったらしい。 昨日底土港で話をを聞いた地元のあんちゃんも「おっちょが一番綺麗ですよ・・・・怖いですけど」と言っていたが、やはり風や潮流によって凄まじいことになってしまうのだろう。 とはいえ、昨日の底土やココぐらいでは式根や神津島の楽しさに遠く及ばない。もうちょっと存分に、且つ安全にお魚さんと戯れたいところなのだが…。 ココは早めに切り上げて藍ヶ江に賭けたほうがいいのかもしれない。
  
 末吉へ戻る途中、南国温泉ホテルしたのタイドプールにも寄ってみたのだが、風と潮でゴミが寄せられてしまったらしく、あまりそそられないのでパス。椎名誠の息子、岳君は洞輪沢のタイドプールで水族館もかくやと思われる魚の群れにあったようだが、残念ながら自分はこことの相性はいまひとつだったよう。 ポイントが少しずれていたのかもしれないが、これ以上は地元の詳しい人にガイドしてもらわない事には判らない。
 
 炎天下の中を喘ぎつつ末吉温泉まで戻る。 さっき洞輪沢の温泉に浸かったばかりだが、もう汗ぐっしょりになってるし、何よりフリーパスを使わないと勿体無いのでさっそく温泉に浸かる。 見晴らしのよい温泉だが、露天のほうは陽光のせいで凄まじい暑さ&熱湯になってるので内風呂でじっくり浸かった。
さっぱりしたところで八丈牛乳で一服し、バスを待つ間パチパチと灯台の写真を撮る。 前回は薄く雲が張っていてイマイチな写真だったが、今日は晴天でいい感じ。

 
もうちょっと近寄りたいとこだけど、バスだとそういうわけにはいかないのだった。
  
 ちなみにこのバス時間帯によって末吉温泉前には停まらないので気をつけるべし。時刻表は観光協会やバスでもらえるのでよく確認しよう。
  
 
 
 次はいよいよ藍ヶ江である。バスを降りるとそろそろ腹が減ったので、前回も利用した惣菜店「我が家」で弁当を購入した。 こっから坂を下っていくが、徒歩だとやはりけっこうある。ただ、もう食料はゲットしてるし、藍ヶ江まで行けば水道トイレがあるのは判っているので洞輪沢のような心配はない。
 
 港に着いたところで弁当を平らげ、食休みもそこそこに着替えて海に入る。 ちなみに簡易脱衣所とシャワーがしつらえられているのだが、気がつかないで漁器具小屋で着替えてしまった。

 さて、真夏の藍ヶ江は流石に美しい。 上から見ると藍色の水、港の外は黒潮の海!


クールバスクリン的な何か
 

弥が上にも期待は高まる。 海藻が付着してツルツルになってるスロープでコケつまろびつ入っていくと、真夏の港の中とは思えぬ透明度だった。 「我が家」のオバちゃんは立派な防波堤ができてから水の入れ替えが少なくなって昔より汚くなったというのだが、台風が来れば数年に一回の割合で堤防を破壊して港内の水を根こそぎ持っていってしまうし、部外者の俺から見れば十分満足できるレベルである。
 

 
 そんでもって魚も多い。 真ん中へんはあまりいないのだが、右側は自然の断崖でそっちには結構な数のオヤビッチャとツノダシが生息しているのだった。 特にオヤビッチャは縄張り意識が強いのか何かと歯をむいてこちらに突っかかってくる。それに港内なのに所々サンゴが生息しているのもポイントが高かった。
  

ツノダシが本当に多い
 

おなじみタカノハダイ・・・ではなく唇が赤い「ミギマキ」
 

あと、やたらとハコフグが多いのも不思議なところであった。
 

それほど大きくないが、しっかりと居る珊瑚
 
帰りのバスの時間を考えるとあまり長時間潜れなかったが、それなりに満足することができた。
 
 バス停に戻る途中に裏見ヶ滝温泉があるのだが、ぬるま湯だったとはいえ前回入ったし、まだ行ってないところを優先するので今回はパスして「中の郷温泉安らぎの湯」へ向かう。 ココの湯船は木張り、お湯は末吉と違ってクリアなので大分雰囲気が違う。 末吉のほうに「見晴らしの湯」と名がついているが、藍ヶ江を見渡すこちらの眺望もなかなかのもの。 末吉や樫立に比べるとサイズは小さめだが、すっかり気に入ってしまった。

 ちなみに前回利用した「足湯きらめき」は此処で使い切れずに余った分のお湯を流しているそう。 一つの源泉を分け合って、時に湯が足りなくなる新島と比べるとなんとも贅沢な話だ。
 
さっぱりしたところで丁度バスがやってきたので底土へ戻る。 相変わらず赤字運行な客の入りだったが、途中玉川大学の生物部のみなさんが大量に乗ってきてようやく賑やかになった。

 底土港でひと泳ぎしたいところだったが、晩飯のオカズもまた買わなきゃならんので先に買出しを済ませなければ。とりあえずトマトとまたツナ缶を購入。 ツナ缶はオイルが入っているので炒め物をする時に楽なのだ。 夏以外だったら「チューブでバター」をサラダ油代わりに使用するところだが、パンも買わないし荷物を極限まで減らすときにはツナの油が頼りになる。
 今日はバス移動だったのですっかり忘れていたが、キャリアが故障していたのを思い出しまた滅入ってしまった。
 しかし人生苦あれば楽あり。キャンプ場に戻ってコメを研いでいると、他のキャンパーさんにムロアジをお裾分けしていただいてしまったのだ。 何でも明日の朝まで食っても食いきれない量が釣れてしまったらしい。
 急遽ツナ缶は明日の朝に後回しになって、今日はムロアジの刺身だ! ワサビがないのでちょっと物足りないが、釣れたてコリッコリのムロアジを堪能することができた。

 さて、飯の後は植物園で発光キノコでも見に行くかなと考えていたのだが、暑さで消耗していたのと昨日が寝不足だったのでさっさと寝てしまった。