八丈島旅行(その4)〜海亀と遊ぼ!〜

 
 さあ、今日はいよいよ一日動ける最終日。 いよいよ、評判は高いものの遊泳禁止の危険が高い乙千代ヶ浜にチャレンジしてみることにした。 地図を見ても乙女千代ヶ浜はバス停から遠く(中田商店から藍ヶ江と同じ位)、もし海況が悪ければ午前を棒に振る事になるが・・・。
 
 朝一番のバスで向かったが、バスを降りると陽は当然のごとく凄まじく、坂を下りていく間にすっかり体が火照ってしまった。 早く海に飛び込んで体を冷ましたい。

 

 降り立った乙千代ヶ浜はユニークなところだった。 左は小さな入り江、中央に人工タイドプール、右は階段で降りられるがゴツゴツと荒々しい岩場・・・そしてその岩場の端に船付きスロープがあり、上にはなぜか学童用の25×5mプールがある。 
 コンクリ製の立派なつくりだが、何故か入り口はスダレという更衣室の前には立派なシャワーがしつらえられており、人里離れた海岸のワイルドさと、それにそぐわぬ手の込んだ設備が同居しているのであった。
 
 遊泳禁止の掲示は出ていないが、そもそもまだ誰もいないので実際はどうかわからない。 見たところでは危ない感じはしないのでまあ大丈夫だろう。 とはいえ初めての場所は怖いので、評判のいい「乙千代右」のうち、岩場で囲まれてあまり流れの来ない内側で恐る恐る潜りを繰り返す。

 透明度は高い。そして、岩に囲まれた中でも定番のスズメダイオヤビッチャニザダイが泳ぎまわり、珊瑚が根付いている。


 
ふと、ボンベ背負ったダイバーが沖へ泳いでいくのが見えた。

・・・。

この内側だけじゃ凄さは判らないし、ちょっと岩場の外出てみよっか・・・。
  
 
 
 波に煽られながら、ごろごろとした巨岩で浅くなっているところをそっと越えた。
 息を深く吸い、潜る。
 

 そこは、チョウチョウウオとユウゼンの楽園だった。
 ユウゼンは八丈から小笠原にかけて生息しているが、それ以外の海では見られず、アクアリストにとっては高価で垂涎の的の魚だという。 そのユウゼンが当たり前のようにそのあたりを泳ぎ回り、珊瑚の間にいる餌を探し回っている。

 もちろんそれ以外にもオヤビッチャ、ブダイ、ニザダイトゲチョウなどがワラワラと泳ぎ回っている。ニザダイは他のスポットよりサイズが二周りぐらい大きい。
  
 船着きスロープの近くなどは水温が違う層があるのか、水の中に靄が掛かっているようになっていて視界が効かないところもあったのだが、それを除けば珊瑚も魚も多く、此処がNo.1スノーケリングスポットであるのは間違いなさそうだ。 他の場所を回っていた最初の二日は遊泳禁止だったが、ここに来る時にはコンディションが回復しているというのは、なんかギャンブルに買った気分だ。 すっかり上機嫌になった自分は気も大きくなり、白く泡立つ岩場のほうへ向かった。 

 と、そのときだった。
十何年か前、スキューバダイビングをしたときに一度だけ味わった奇妙な感覚に包まれた。
「???」
 なんだろう。人間ではない、魚でもない、何か大きい生き物がそこにいて、敵意があるわけでも無くこちらを見ているという不思議な感覚。その視線の元のほうへ目を向けると・・・・

いた。以前その視線をこちらに向けた生き物が、ここにも。
打ち寄せられた海藻かクラゲでも探していたか、「なあんだ・・・ニンゲンか」と興味を失ったとばかりに踵を返して去っていった。



 
慌ててカメラを向けて追うが、ゆったりとした泳ぎ方なのにどんどん引き離されてゆく。

僅か2〜3分のことだったろうか。

 それでも普段めったなことが無ければ生きている上でですれ違うことが無い、生活圏が全く違う、何十年と生きる野性の生き物との邂逅は強烈なインパクトとなって自分の中に残った。 こちらから海に入っていったのだからある意味会いに行ったと言うべきなのかもしれないが、ドルフィンスイムやホエールウォッチのように、沢山いる場所を確認した上で「ウミガメウォッチング」とか意識して行ったわけではない、ホント偶然の産物でこうやって出会うというのは本当に嬉しい。
 
 ダイビングもそんなにボンベの本数こなしたわけではないし、スノーケリングとて夏休みの間に数回やるだけなのにこうやって2度も会えるのは「カメ運」みたいのがあるのだろうか。 山に登る時には全然哺乳動物に遇う事がなくて釈然としないものがあるのだが(まあ熊や猪に襲われるよかいいけどね)、この辺で帳尻があっているのだろう。
 
 ではそろそろ上がろうか、と戻る途中今度は岩の間をごん太のアオヤガラがうねうねと横を追い抜いていった。全くここはなんというキャパの大きさか!

 とにかく凄い「乙千代右」を先に存分味わってしまったのであるが、リーフツアラーに送るレポのために左ポイントも潜っておく。 こちらは神津島の赤崎のように外洋との境目が狭く、大部分が岩に囲われているので波も流れも少ない。 スペース自体も小さく、「ミニミニ赤崎」といったところ。 魚は右ポイントより小粒だが、強い流れを避けてのことかキビナゴの群れがいついていた。


 
そして、右ポイントではアオヤガラだったが、こちらも長くてニョロニョロしたものが見送ってくれた。

おい、早く撮れ、と言わんばかりにゆっくりと体をくねらせるウツボ
 
いつの間にか2時間近くたっていたのか、家族連れが大勢やってきている。 大部分がタイドプールや比較的安全な左ポイントなので、ちょっとばかりゴーマンな気分になる。
 
「ふふん、俺は右ポイント帰りよ・・・。」
 
 
 そろそろ疲れが溜まってきたので一旦上がり、手早く着替えてから防水ハウジングを開けてカメラの電池を交換。上がる直前にはレンズが曇っていたので、乾燥剤も炎天下に晒して乾かす。 ついでにフヤケた足を日干しにしていると、朝早くに沖へ出て行ったダイバーがシャワーでカメラの塩抜きを始めた。 話を聞くと、やはりここは油断のならないポイントだと言うことを改めて思い知らされた。

 「朝早いうち(自分が潜り始めたあたり)は大丈夫だったけど、今は強烈な潮流がだんだん近くになって来てる。ほら、そこ見てみてよ。左から右にすんごいスピードで流れてるでしょ。あの漁船、流れに逆らって最高速でスクリュー回してるけど、全然スピード上がんないでしょ。船であれだから人間だとあっという間に・・・ね。流されたら多分十中八九助からないんじゃないかなあ。 僕は底のほうを這って進んで、あとは岩伝いに掴まってきたんだよ。」
 
 と、恐ろしいことを言う。そして
 「え?ウミガメ?クラゲ食いにくるから結構寄って来るんだよね。いやでも、スノーケリングで遇うって言うのは珍しいよ。すごいラッキーなんじゃない?」
 
 バディもつけずにソロで潜るツワモノダイバーにここまで言われると喜びも大きい。 
 
 No.1ポイントを十二分に堪能した喜びを胸にバス停に戻ったが、暑さと日光の凄まじいこと!日陰を探してフラフラとジグザグに歩くので余計に消耗してしまった。 バス停近くのスーパー「伊勢崎富次郎商店」でまずはアイスでも・・・と思ったが、朝飯はいい加減だったし、タイミングが悪いと昼飯も食い損ねそうだったのでアイスはやめてサンドイッチと紅茶で早めの昼食にした。 軽くとは言えちゃんと食って置けば次にすぐ動くことができる。 伊勢崎富次郎商店は旧店舗跡が無料休憩所になっており、持ち込みの飲食物をたべたり、近くのうどん屋から出前を取り寄せたりできるのだ!
 

食後は休憩所でおばちゃんと話したりしながらバスを待つ。 しかしこの休憩所がなかったら炎天下でえらい事になっていた。ありがたやありがたや。
 休憩所で話したおばちゃんも中之郷方面だったので一緒に降りる。 おばちゃんちの前を通る近道を教えてもらいながら一緒に歩く。 このおばちゃんに聞いたのだが、八丈島のあちこちの家の庭や空き地でせっせと植えられているフェニックス・ロベレニー。 これは花屋さんの花束の添え葉なんかに使われているものだが、リタイアした老人の老後の貴重な収入源となっていて、庭のある老人はせっせと植えているるらしい。 一枚10円とかそこらとは言え、離島では貴重な収入源だろう。
「東京の島」では「これさえあれば食いっぱぐれないからみんなのんびりしてしまう」というような紹介のされ方だったがこうやって聞くともうちょっと切実なようだ。 ちなみに国内で使われるロベレニーは八丈島産のものがほぼ100%を占めていて、鉢物は輸出もされているとか。その総額は12億円!というから八丈島の生産物の優等生と言っていいだろう。
 

ロベレニー畑


途中で見かけたなんか凄い根っこ


何処までも鮮烈に赤いハイビスカス

ところで昨日は裏見ヶ滝をスルーしてしまったので今日は海に入る前に滝&温泉へ。
真夏なのでここは冷水シャワーでしょう!ってわけで盛大に浴びる

真夏だからできる滝シャワー
 

冷水の後は熱い温泉

以前来た時は給湯パイプの故障でぬるま湯だったが今日はキッチリいい湯。スノーケリングとここまで歩いてきたことで溜まった足の疲れが抜けていくよう。

この後は藍ヶ江で潜って、中之郷温泉でまたひとっ風呂なのだが、昨日と同じなので特に書かない。

ちょっとまずったのは乾燥剤が乾ききっていないのかレンズ汚れのせいか、ハウジングが酷く曇りだしてしまった。 温泉の休憩所でティッシュで拭ったのだが、どうだろうか。

 中之郷からの帰りバスでは末吉に行ってきたらしい女の子二人組が乗っていたが、「行ったはいいけど何にもないしバスはないしで困った」とこぼしていた。 初めてでは交通状況も見所もわからないからしかたないのだが、こういうことで「八丈島なんてつまんない」と誤解されないといいのだが。 自分は最初の八丈が自転車だったから良かったのかも。

 さて、底土に戻ってきたが、まだちょっと陽はあるし、最後の最後に底土海水浴場でひと泳ぎすることにした。
なんでも魚も珊瑚もキャンプ場前より海水浴客が大勢いる砂浜前のほうが多いらしい。

 潜ってみると防波堤から数mのところに凄まじいムロアジの群れ。 防波堤の前だし、他の海水浴客も多いのでムードには欠けるが、身近にこれだけの回遊魚に囲まれる体験ができると言う点ではなかなか貴重なスポットだろう。

 ティッシュで拭った後、水滴がついていたので眼鏡拭きで拭いたらまたレンズが汚れてしまったらしく、防水ハウジングのレンズは真っ白になってしまったが、何とかいくつか写真に収めた。


 

 初日最初っからここで潜っていればアラ池へも行けて無駄がなかったが仕方あるまい。それより、キャンプ場の前だけで早合点して「底土はダメ」と結論を出さなかっただけよしとしよう。 ちなみに海水浴場の仕切りブイの外側のほうがもっとすごいサンゴ群落と群れが一杯いるらしいのだが、海水浴シーズンは監視員に怒られるので止めといた方がいいだろう。
 
 底土でのスノーケリングの後は楽しい楽しい夕食。
 今日は最後の夜なので自炊せず外食なのだ。 以前も訪れた「あそこ寿司」で島寿司をいただく。

いろいろ解説してもらったが忘れた

 食い終わったらささとキャンプ場に戻ろうかと思ったが、「せっかくだから見てこい」との親父さんの勧めで再び植物園へ行き、夕闇の中で夜光キノコを見る。 NPO主催の見学会の時間には早すぎたため、親子連れが一組しかいなかったが、おかげで危ない思いをせずに済んだ。 自転車のヘッドライトを外して持っていったが、準備できるひとはヘッドランプか懐中電灯を持っていったほうがいいだろう。 足元はグッチャグッチャのドロドロなのでサンダルはやめといたほうがいいよん。
 面白いのはキノコの傘だけでなく、菌糸がついていると思しきところが全体的にぼうっと光っていることだ。本当に僅かな光なのだが。菌糸のついているヤシの葉っぱの形に光っているのはなかなか神秘的だ。

 これで満足してキャンプ場へ戻る。
 帰りにスーパーでビールを購入し、船の中で食べ損ねたつまみで一杯。 ふわりと酔いが回ったところでオヤスミナサイ。